第4回 対象(3) 生物、生理、障害の観点から
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1. 生物の観点から
諸器官が機能して、運動性を有していることが前提、必要条件 生物も物体であるので、運動性には物理法則が適用される 心理学における脳神経系を含めた生理学が対象とする器官の機能と構造とを研究する領域
生物学に限らず、心理学においても、進化の考え方の大切さも強調されるようになってきている 人間の行動を研究する際にも、系統発生的な観点から有益な知見が集積されている 様々な生物間の比較を行って、最終的には人間についての理解を深める
安易に進化の考え方を採用するのではなく、種の独自性を評価することも大切である
2. 生理、特に脳神経系について
経験を通して脳神経系も日々変化していく
この成長や変化の過程を記述していくこと自体、極めて困難である
経験を通した変化
あるニューロンから別のニューロンへの情報伝達が繰り替えし行われると、ニューロン間の伝達の効率が高まる
この情報の伝達の繰り返しによって、シナプスに長期的な変化が引き起こされる、これによって学習が成立する 学習を支える脳神経系の機能と構造との大きな枠組みとしては、現在にも通じる考え方
脳神経系の中でも中心的な役割
「特に大脳皮質では細胞構築の違いにより」、さらに、「霊長類ではより高等になるほど新皮質の発達が著明であり、新皮質が大脳皮質の大半を占めているが、新皮質内では機能局在の多様な分化が進んでいる」蔵田, 2015 3. 言語中枢について
言語中枢という特定の部位があるのかというのは激しい論争がある
いくつかの領域が言語機能に関連していることが示されてきていることも事実
言語の理解の面は保持されていがが、発話に大きな障害がみられた 流暢な発話は保持されていたが、言語の理解に障害が見られた
言語中枢のモデル
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ブローカ野とウェルニッケ野、それらを結ぶ伝導路を想定した言語処理ネットワークのモデル
近年の研究から、多数の領域が言語処理に関わっていることからモジュール構造が提出されている
言語行動については、言語中枢ばかりでなく、実際の言語を使うこと(話す、聞く、書く、読む)が実行される必要がある これらは体性感覚野と運動野が関わっている
体性感覚野と運動野とを囲んで、人間の身体が描かれており、身体部位と部位とのおおよその対応を示している
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運動野では、手と指先までと顔と口周りとが対応する領域の面積が大きくなっている
発声、発声に伴う表情などを示していくために、そうして特に手を使って道具を使うために、多くの神経組織が関わっているということ 4. 発話の連鎖から
以下の説明の意図
発話の運動を支える、脳神経系について改めて認識を深めよ
ペンフィールドの体性地図の運動野で、顔と口まわりとが対応する領域の面積が大きくなっていることの意味
発話の連鎖は、話し手の発話が聞き手に達するまでに、どのような過程を経るのかを示している
便宜上、話し手から検討を始める
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話し手は、伝えたい内容を表現するために、適切な語を選び、それらの語を文法規則に沿って文にする 場合によっては、文をさらに組み合わせて文章にすることもありえるし、単語のみの場合もある 聞き手の耳とそれに関連する聴覚器官に届いた圧力の変動が、聞き手の聴覚機構を作用させて、神経インパルスを起こし、聴神経を経て聞き手の大脳に届く 感性言語野において伝達された神経インパルスを解釈して、話し手が話した文を聞き手が理解する 話し手から発生された音波は話し手自身の耳にも伝わって、話し手の聴覚機構から大脳に伝わり、その内容を理解する
ここで言語学的段階というのは脳神経系において行われることを前提としているので生理学的段階として必要であるということはできる
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そして、それで十分であるか否かが議論のポイント
発生器官において、どのように発声が行われるか
発声器官
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口の上部
口の下部
外側は下唇, 次に歯があるが、発声には不要であるので、この図には指示されていない 発声を記述するために、舌の部分を区別する必要があり、上部の器官を基準として区切られた
舌先(舌尖と舌端を合わせた名称)と言われる場合もある 舌の先端はよく動くので特別な名称が必要
軟骨で囲まれた器官
呼吸に伴って空気が通過する
咽頭の中
2本の筋肉
開閉可能
2本の筋肉の隙間j
咽頭の奥
気管の奥
咽頭にある蓋をする器官
食べ物などを器官に入らないようにする
咽頭から唇までの空間の内,
舌と口蓋と両頬に囲まれた部分
舌根と咽頭壁に囲まれた部分
花の中の空間
咽頭から口、鼻の端までの気流の通り道全体
ここでは音声の最小単位である音(単音または分節音)のみを検討 器官
気流の方向
中から外への流出
外から中への流入
以下は音を発するためには使われない
肺臓気流機構・流入
軟口蓋気流機構・流出
ので実際には4種類となり、別々の単音グループが対応
咽頭気流機構・流出
咽頭気流機構・流入
軟口蓋気流機構・流入
肺臓気流機構・流出については特段の名称はつけらていない
発声の代表的な部分を占めているということ
肺から流出した気流は咽頭を通る
咽頭の中にある声帯の動きによって、声門が完全に閉じた状態から大きく開いた状態まで変化して、異なった性質の気流に変化する
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声帯が気流に対して行う動き
2本の声帯が近づいて声門がしまった状態にあると、声帯は気流の力学的な影響から、閉鎖と開放とを繰り返してブルブルと振動する
2本の声帯が離れて声門が開く開けられていると気流は影響を受けずに声帯も振動しない
調音の過程
咽頭より上の器官である調音器官を様々に動かして、気流に様々な影響を与えて、いろいろな音を作り出している
母音は気流が妨げされずに口腔を通過する音
唇の丸さを変えたり、舌の高い位置を変えたり、舌の高さを変えたりして別の母音として発せられる
子音は気流が止められたり狭められたりしている音
子音の調音は極めて複雑
気流を妨げる場所(唇、歯茎など)と気流の妨げ方(完全な閉鎖、鼻から抜ける、隙間がある、など)とによって、異なる子音として発せられる
5. 障害について
発話の連鎖では話すと聞くとの連鎖だが、読むと書くとの連鎖についても同様に捉えることができることもある
端的には、この連鎖のどこかで異常が起きれば、いわゆる「ことばの障害」が生じやすくなるということ
異常
身体的な異常
部位による区別
精神的(心理的)な異常
その結果として失語症に陥ったということ
音声機能の障害
言語機能の障害
失語症もこの1つ
神経心理学的な研究から、その診断方法も研究対象となっている
診断基準が増えた
発話の流暢性
聴覚的な言語理解
復唱
書字
読解
ので、失語症の様々な種類が区別されるようになった
診断基準のすべてで困難が生じる
困難
発話の流暢性
書字
復唱
困難なし
聴覚的な言語理解
読解
困難
発話、書字の内容に錯乱が見られる
聴覚的な言語理解
読解
復唱
困難なし
発話の流暢性
書字
ブローカ失語と違い復唱に困難なし
ウェルニッケ失語と違い復唱に困難なし
復唱にのみ困難がみられる
ある特定のカテゴリーの名詞に限定的な障害が生じる
障害の内容や程度によって様々な失語症がある
複合型や移行型もある
読みの障害
同時に書字にも障害が現れることが多い
中枢神経系に原因がある
全般的な認知発達には問題ないが、一部の知的な能力に問題がある障害を言う
読字障害は特に読み書きという能力
文字とは人間が発明した人工物
文字を持たない言語が存在する
読み書きに関わる能力は生得的に備わっているというよりも、後天的に、端的には、学習によって習得していくしかないもの
言語中枢の観点からも特定の脳の部位が、読み書きに関わる機能を担っているということも明確ではない
日本では今までそれほど注目されてこなかったと言える
日本語の特徴として
漢字は文字としては複雑であるが意味をとりやすい
仮名の読み方はそれほど複雑ではない
今後蓄積されてくることに期待
6. 言語行動の分類:活動の視点から
言語学の研究領域と心理学との関係についての筆者の私見
本章では発声の神経生理や運動機構、障害について検討してきた
一般的には「言語を話す」「発話」
これが「記憶」であるというのは、発話を情報処理として捉えることができるということ 情報処理の過程と結果とを想定することが出来る
発話には言語学の様々な下位領域がある
たとえば日本語の音素、語、文、文章という単位での構成要素や統語規則について「記憶」をして、組み合わせるという「処理」をして、「発話」が実行される それを対象にした心理学研究が蓄積されているということ
単に発話を実行するだけでなく、より望ましい発話を習得するための学習方法や訓練方法を開発するといった心理学研究が蓄積されているということでもある
望ましい発話とは何か
論理的に正しいとか聞きやすいとか感動を覚えるような発話
研究テーマ
論理的思考や推論
感情や感動
それらがどのように発達するか(認知発達)
同じことは言語行動の別のモードについても当てはまる
言語を聞く、言語を読む、言語を書く
たとえば「言語を書く」、「言語を効果的に書く」
作文についての情報処理モデルが提出されて
そのモデルに基づいた効果的な作文教育についての認知心理学研究がある
言語行動の4つのモードを2つにまとめることも多い
言語を話す、言語を書く
言語を聞く、言語を読む
言語産出/言語理解についての情報処理モデルも提案されている
身振り・手振り
メディアは媒介であるが、同時に意味内容にもなってしまう、ということ 実はコンテンツを対象とした学習であった、そのために、研究のための分析単位としては「活動」が適切であったというように捉えることが可能 言語行動の4つのモードを区別してきたが、ICTの進展によって、この区別にも影響が及んでいる
ICTの進展以前から、
ICTの進展によって、コンテンツの流通ということが、莫大な規模で実践されるようになってきている